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危険なパスワードの例と5つの対策

危険なパスワードは、短い文字列だけではありません。個人情報、漏えい済みの値、複数サービスでの使い回し、予測しやすい変更にもリスクがあります。推測研究が公表している実測値を使って「何回試されると破られるのか」を整理し、攻撃手法ごとに狙われる弱点と5つの対策をまとめます。

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危険かどうかは「何回で推測されるか」で決まる

パスワードの安全性は、文字種の多さではなく攻撃者が何回試せば当たるかで決まります。

Bonneau (2012) は7,000万件の匿名化パスワードを分析し、定番候補を試すオンライン攻撃でアカウントあたり約10回の試行により約1%が突破されると報告しました。10ビットのランダム文字列に相当します。NIST SP 800-63B-4は連続失敗の上限を100回以内としており(3.2.2)、10回は防御側の想定範囲です。

表1:攻撃手法別に何が狙われるか

攻撃手法前提となる条件狙われる弱点有効な対策
辞書攻撃(オフライン)認証情報が漏えいし、試行回数の制限がない辞書語、定番の数字列、よくある変形辞書語を避け、長いランダム値を使う
総当たり(ブルートフォース)同上。探索空間を最後まで試せる文字数の不足と、文字種の狭さ長さを確保する(単一要素なら15文字以上)
クレデンシャルスタッフィング他サービスから漏えいしたIDとパスワードの組を入手している完全一致の使い回しサービスごとに値を変え、多要素認証を併用する
パターン推測(クロスサイト推測)漏えい値から、同じ利用者の別サイトの値を推測する大文字化・末尾への数字や記号の追加という定型の変形変形ではなく、独立に生成した値を使う
オンライン推測(レート制限あり)認証画面へ直接試行する。回数はサービス側で制限される上位の定番候補ブロックリストで定番値を弾き、回数制限を維持する

攻撃手法ごとに狙われる弱点が違うため、対策は組み合わせて初めて意味を持ちます。

推測研究が示す成功率と、その実験設定

「弱いパスワードは危険」という説明はよく見かけますが、具体的な数字はあまり共有されていません。以下は参照した研究の数値を実験設定とセットで示したものです。設定が異なるため相互比較はできません。

表2:研究が報告している推測成功率

研究実験の設定推測の予算結果
Bonneau (2012)7,000万件の匿名化パスワードへのオンライン推測(限速あり)アカウントあたり約10回約1%のアカウントを突破
Das ほか (2014)漏えい済みの非同一ペアへのクロスサイト推測100回30%(既存ツールのみでは14%)
Weir ほか (2010)7文字以上のパスワードへの最適化攻撃5万回25%超を突破(10文字以上でも14%超)
Dell'Amico ほか (2010)イタリア語データセットへのマルコフ連鎖攻撃約10万候補20%を突破
Kanta ほか (2021)95文字種のMD5ハッシュへの総当たり(GPU 1枚で毎秒500億候補)8文字までの全探索2日未満で全空間を試行

5万回で7文字以上のパスワードの25%超が破られ、「7文字以上あれば安全」という基準は成立しません(Weir ほか 2010)。Kanta ほか (2021) は、GPU 1枚が毎秒500億件を評価でき、95文字種からなる8文字のMD5ハッシュを2日未満で全探索できると算定しました。同研究はHave I Been Pwned由来の39億アカウント超を分析し、固有パスワードの30%超がちょうど8文字だったと報告しています。深層学習を用いたPassGANは、既存ツールの出力と組み合わせることで一致数を51〜73%増やしたとも報告されています(Hitaj ほか 2019)。

危険なパスワード1:単純すぎる文字列

「123456」「password」「qwerty」は候補リストの先頭に置かれ、限速下のオンライン推測でも最初に試される値です。Weir ほか (2010) は、数字と英字を含む7文字以上のパスワードの11.06%が、末尾に「1」を付ける推測だけで破られたと報告しました。

漏えい済みの値は Have I Been Pwned のPwned Passwordsで照合できます。同サービスのトップページは2026年9月17日時点で1,036件の漏えいサイトと17,816,217,392件の漏えいアドレスを表示していました。

対策:意味を持たないランダム値か、辞書語を組み合わせた長いパスフレーズを使います。当サイトのパスフレーズ生成ツールで作成し、そのままマネージャーへ保存してください。

危険なパスワード2:個人情報に基づく文字列

誕生日、電話番号、ペットの名前などは公開情報から収集しやすく、候補の総数も小さくなります。NIST SP 800-63B-4は、ブロックリストに含める例として「過去の漏えいから得たパスワード」「辞書語」に加え、「サービス名・利用者名およびその派生語」を明示しています(3.1.1.2)。

対策:個人と結びつく情報、サービス名、利用者名、その派生語を含めない値を使います。

危険なパスワード3:複数サービスでの使い回し

漏えいしたIDとパスワードの組を別サービスへ試す攻撃をクレデンシャルスタッフィングと呼び、使い回しが成立条件です。Das ほか (2014) は利用者の43〜51%が同じ値を使い回していると推定し、クロスサイト推測が100回の試行で非同一ペアの30%を突破したと報告しました(既存ツールのみでは14%)。

Pearman ほか (2017) は154名を平均147日間追跡し、完全一致32%・部分的53%・いずれかの形で約60%が使い回されていたと報告しました。

対策:サービスごとに異なる値を設定します。当サイトの一括生成ツールならサービスの数だけ値を一度に作れます。

間違い4:理由のない定期変更だけに頼る

漏えいの兆候がないのに短期間の変更を強制すると、末尾の数字だけを変える予測しやすい更新を誘発します。NIST SP 800-63B-4は定期的な変更を要求してはならない(SHALL NOT)とし、漏えいの証拠がある場合は変更させるとしています(3.1.1.2)。

対策:漏えい報告、不審なログイン、共有者の変更、弱い値の判明時に変更します。判断基準は定期変更が必要な条件で整理しています。

【実例】危険な暗証番号(PIN)パターン一覧

4桁の暗証番号(ATM・スマートフォンのロック画面など)は組み合わせが10,000通りしかないため、パスワード以上に「パターン」の危険性が高くなります。

表3:よくある危険パターンと、辞書に含まれる理由

パターン具体例攻撃者の候補リストに載る理由
同じ数字の繰り返し0000, 1111, 7777最初に試される定番候補。NIST SP 800-63B-4も暗証値のブロックリスト例に123456を挙げています。
連続した昇順・降順1234, 4321, 2345, 6543押しやすさから選択が集中し、辞書の上位に固定されます。
先頭・末尾の定番数列0123, 9876過去の漏えいデータでも上位に現れ、候補の最初期に試されます。
テンキー上の直線的な並び2580, 0852中央の縦一列など、指の移動が単純な並びは列挙が容易です。
生年月日・年号の下4桁1990, 0709個人と結びつく情報から機械的に作れ、候補数が小さく絞り込まれます。
定番値の1文字延長12345, 00000延長は辞書の派生ルールで自動生成されるため、対策になりません。

表3は一般的な危険パターンの整理であり、頻度ランキングではありません。NIST SP 800-63B-4も、機器の活性化に使う暗証値について6文字以上を推奨し、連続する失敗を10回以内に制限することを求めています(3.2.10)。

当サイトのPIN生成ツールが実際に除外している条件

当サイトのPIN生成ツールは、次の2条件に一致する値を自動的に作り直します。

  • 定番の4桁14種を部分文字列として含む値。0000〜9999の繰り返し10種と、1234・4321・0123・9876です。6桁や8桁でも内部に並びがあれば作り直します。
  • 全体が昇順または降順に連続する値(4桁以上)。2345や6543が該当します。

一方、生年月日や電話番号の下4桁、テンキー上の並び(2580など)は除外されません。作り直しは最大20回で、上限到達時はその値を表示します。

間違い5:メモの管理が不適切

付箋やノートに書いたパスワードを他人の目に触れる場所に置くケースは少なくありません。NIST SP 800-63B-4は、複雑すぎるパスワードは記憶されにくく、安全でない方法で保存される可能性が高まると指摘しています(付録A)。日常利用は暗号化された管理アプリを基本にしてください。

危険なパスワードを避ける5つの対策

表4:5つの対策と、その根拠

対策具体的な内容根拠
1. 長さを取る単一要素なら15文字以上、多要素認証の一部としてのみ使うなら8文字以上NIST SP 800-63B-4(3.1.1.2)
2. サービスごとに値を変える使い回しと、その変形による芋づる式の推測をなくすDas ほか (2014)、Pearman ほか (2017)
3. 漏えい済み・辞書語・サービス名を避けるサービス名や利用者名の派生語も除外するNIST SP 800-63B-4(3.1.1.2)
4. パスワードマネージャーで生成・保存する生成・保存・自動入力を1か所に集約するNIST SP 800-63B-4(自動入力の要件)
5. 多要素認証・パスキーを有効にする値が漏えいしても、それ単独ではログインが成立しない状態にするNIST SP 800-63B-4

長さは文字種より効きます。使える文字が95種でも8文字は総当たりで2日未満です(Kanta ほか 2021)。多要素認証は漏えい後の被害を限定しますが、他の4つを置き換えるものではありません。

すでに使っているパスワードが心配な方へ

心当たりがある場合は、利用中サービスのパスワードを変更し、使い回しを解消してください。変更の起点は金融・メール・SNS・業務アカウントなど影響の大きいものからで構いません。パスワード強度チェックでは文字構成の理論値を確認できますが、実際の重要パスワードではなくサンプルの入力を推奨します。

漏えいの確認にはHave I Been Pwnedのような照合サービスを使います。ハッシュの一部だけを送る方式ですが、送信先と利用条件の確認は利用者側で行ってください。被害事例はIPAの不正ログイン対策特集ページでも解説されています。

よくある質問

「危険なパスワード」とは、具体的にはどんな文字列ですか?

攻撃者が最初に試す候補に入っている値です。辞書語、定番の数字列、サービス名や利用者名を含む値、過去の漏えいで公開された値が該当します。末尾に1文字足しただけの変形も推測候補に残ります。

大文字・数字・記号を混ぜれば、危険ではなくなりますか?

混ぜるだけでは十分ではありません。研究では、数字を必須にすると末尾に数字を付ける利用者が77.46%に達することが報告されています。長さを確保し、サービスごとに独立した値を使うほうが効果的です。

パスワードを使い回すと、実際にどのくらい危険ですか?

研究では利用者の43〜51%が複数サイトで同じ値を使い回していると推定されています。漏えい値から別サイトを推測する攻撃では、100回の試行で30%のペアを突破できたという報告があります。

4桁の暗証番号(PIN)は使わないほうがよいですか?

4桁は10,000通りしかないため、単体では推測に弱い方式です。ATMのように失敗が続くとロックされる場面では実用的ですが、オンラインサービスで無制限に試せる場面では使わないでください。

まとめ

危険なパスワードかどうかは、攻撃者の候補リストの何番目かで決まります。対策は、長さを取り、サービスごとに値を変え、漏えい済み・辞書語・サービス名を避け、パスワードマネージャーで管理し、多要素認証を有効にすることです。5つは代替関係になく、1つ欠けると別の攻撃が成立します。

本記事の調査範囲と限界

  • 表2の数値は相互に比較できません。研究ごとにデータセットと攻撃アルゴリズムが異なり、特定のサービスへ外挿できないためです。
  • Bonneau (2012) の「約10回で約1%」は集団に対する経験則です。個々のアカウントが1%で破られる意味ではありません。
  • Kanta ほか (2021) の2日未満という算定はMD5が前提です。bcryptやArgon2では所要時間が大きく変わります。
  • 当サイトのPIN生成ツールが除外するのは限定的です。定番4桁14種を含む値と、全体が昇順・降順に連続する値だけです。生年月日やテンキー上の並びは対象外で、作り直しも最大20回です。
  • 表示されるエントロピーは理論値です。桁数に log₂10 を掛けた値で、パターン除外による減少は反映していません。
  • Have I Been Pwned の統計値は変動します。対象は公開された漏えいのみで、本記事の件数は2026年9月17日時点の表示です。
  • 個別サービスのパスワード要件は実測していません。上限文字数・記号・試行回数制限の実装は各サービスに依存します。

参考資料

著者・編集:passwordgenjp.com 情報セキュリティ研究チーム。公開資料の確認日:2026年9月17日。

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